FP資格の新たな価値とCBTで広がる受検機会
CBT(Computer Based Testing)は、受検機会を広げ、利便性を高める試験方式としてさまざまな分野へ浸透した。金融財政事情研究会でも、ファイナンシャル・プランニング技能検定ほか、主要資格試験にCBT方式を採用している。
当会理事長の加藤一浩が、CBT方式の採用の経緯を含め、CBTソリューションズ代表野口功司氏とFP資格制度の現在と今後の方向性を探る(本稿は2025年11月実施の対談を再構成したものです)。
野口 本日は、当社のサービスをご利用いただいている金融財政事情研究会の加藤理事長にお話をうかがいます。まず、貴団体の成り立ちと設立当初の目的についてご紹介いただけますか。
加藤 当会の設立は1950年です。「金融知識の普及」「金融人材の育成」を目的に、大蔵省所管の社団法人として発足しました。
事業は週刊誌『金融財政事情』の創刊から始まり、単行本や教材の出版、セミナーや講演会の開催など、まずは情報発信に力を入れました。
その後、1965年に通信教育を開始し、さらに検定試験の実施へと活動を広げました。金融機関職員の方々は、業務に追われるなかで法律や制度に基づいた専門性の高い実務知識を身につける必要があります。通信教育を通じて知識を積み上げ、検定試験はその成果・習得度を客観的に測る手段として行います。このように、「情報」と「教育」の両面で金融業界を支えてまいりました。
FP資格の歩みと取得が求められる理由
野口 金融教育の軸となるファイナンシャル・プランニング技能検定(FP)はいつ頃から始まったのですか。
加藤 FP資格は、1987年に金融渉外技能審査という名称でスタートし、2002年の法改正により国家資格として現在の名称になりました。このほか、国家試験である金融窓口サービス技能検定や当会独自の金融業務能力検定も実施しています。
野口 金融機関にとって、これらの資格はどのような意味を持つのでしょうか。
加藤 金融業務の本質は相談業務であり、お客さまと信頼関係を構築するうえで、職員がしっかりとした知識を持つことが不可欠です。資格は知識を有する証であり、研鑽の証でもあります。
野口 最近は国民の金融リテラシーも高まっていますね。
加藤 長く続いたゼロ金利政策が終わり、お客さまの金利感応度が高まっています。貯蓄から投資へ選択肢が広がり、資産形成の場面でもFPの知識が求められています。
野口 FP資格取得によってどのような効果や影響が期待されているのでしょうか。
加藤 大手地方銀行の調査で、FP2級(個人資産相談業務)の資格を取得している行員は、取得していない行員よりも、営業成績が平均20%高い、という結果が出ています。FP資格が実務に役立つことを示すデータとして業界紙でも紹介され、大きな反響がありました。多くの金融機関で同様の成果を実感されているようです。FP資格は昇格要件にも組み込まれており、取得できないと昇進・昇格できないケースもあります。
野口 20%の差は大きいですね。貴団体のFP検定の特徴を教えていただけますか。
加藤 私どもの検定は、学科試験は共通ですが、実技試験を業務別に展開している点が特徴です。FP2級の場合、個人営業に特化した個人資産相談業務、法人営業に特化した中小事業主資産相談業務、生命保険業務知識を主体とした生保顧客資産相談業務、損害保険業務知識を主体とした損保顧客資産相談業務があります。複数の実技試験を受けることも可能です。
野口 実務に即した知識を深く学べる検定なのですね。当社では多くの資格試験を取り扱っていますが、資格取得によって評価が高まり、お客さまへ提供するサービスの質が上がるなど、メリットは多いと感じています。特にファイナンス系の資格は、収入に直結しやすく、FPはうってつけの資格だと思います。
CBT化への大転換、その決断の背景
野口 CBT化に踏み切った経緯を教えてください。
加藤 以前は年3回、全国約300会場で同日に一斉試験を実施していました。CBT化に向けて社内で議論しましたが、賛否両論ありました。しかし、時代の流れを考えると、CBTはお客さまが求める方向性だと判断しました。まずは金融業務能力検定のCBT化から着手し現在に至ります。
野口 300会場の試験運営は大変だったでしょう。
加藤 試験日には、社員のほとんどが会場運営に駆り出されていました。台風や地震などの自然災害もあり、一部の会場で試験を中止せざるを得ないこともありました。
野口 CBT化で利便性は大きく向上しましたね。
加藤 全国のテストセンターでいつでも受検できることは非常に大きなメリットです。
野口 一方で、課題も見えてきたのではないでしょうか。
加藤 「いつでも受検できる」気軽さが、先延ばしにつながる傾向があります。年3回の決まった日程であれば、その日に向けてしっかり準備して挑戦するのですが。
AI時代の学びの価値と資格が拓く未来
野口 AIの発展が金融業界に与える影響をどう見ていますか。
加藤 AIは人の仕事を「代替」するのではなく、「拡張」するものだと捉えています。よく 「AIに仕事を奪われる」といわれますが、少子化で労働力が減少するなか、AIが担える部分はAIに任せ、人にしかできないことに集中する。それが、人の価値をより高めると考えています。
野口 今後は資格を持つ意義も変わっていくのでしょうか。
加藤 AI時代だからこそ、むしろ重要性は増すと思います。AIを使いこなすにも、基礎となる知識が必要です。FP1級を取得された方から「この知識があれば、仕事に困ることはない」という声をよく耳にします。
野口 資格を持つことで得られる専門性がキャリアの土台になります。実際、当社のデータを分析すると、年間約300万人の方が何らかの試験を受験していますが、1つ資格を取得した方は平均3つ以上の資格に挑戦しています。資格取得の価値を実感し、それが自信や成長につながっているのでしょう。日本人の国民性にも合っているのかもしれません。
加藤 日本人は謙虚で、自己能力をなかなかアピールしません。FPを取得すると、自信を持って仕事に取り組むことができるという話をよく聞きます。資格は、自分の能力に対する「お墨付き」なのです。
野口 名刺に資格を書くだけでも、会話のきっかけになります。
加藤 その通りです。資格があることで、お客さまとの信頼関係が構築しやすくなります。そこから話題が広がり、新しいビジネスチャンスが生まれることも多いのです。
金融教育の新時代へ
加藤 資産運用立国という国の方針が示されています。政府は貯蓄から投資への流れを促進しており、以前にも増して金融教育の重要性がさけばれています。
野口 高校でも金融教育が始まりました。
加藤 成人年齢が18歳に引き下げられ、若いうちから金融リテラシーを身につける必要性が高まりました。J-FLEC(金融経済教育推進機構)も設立され、国民全体のリテラシー向上を目指しています。
野口 FP資格の重要性がますます高まりそうですね。
加藤 J-FLECの認定アドバイザーになるには、FP2級程度の知識が必要です。FP資格と金融業務能力検定の両面で、この流れを支えていきたいと考えています。
野口 正しい金融知識を持つことは、個人の人生設計にも、日本経済全体にとっても重要です。
加藤 資格を取得したら終わりではありません。税制も毎年変わります。継続的に学び、知識を入れ替えることが大切です
野口 これからの時代、どんな職業に就くべきか迷っている若者には、ぜひファイナンス分野を勧めたいですね。AIを使いこなせるファイナンスのプロは、確実に活躍できる時代が来ています。
加藤 FP資格は、まさにその第一歩です。多くの方に受検していただき、金融リテラシーの向上に貢献できればと思います。
テストセンターはインフラに
野口 今後のCBT事業の展開について、私たちの構想をお話しします。現在、全国に約320のテストセンターがありますが、さらに拡大していきたいと考えています。まだ会場が足りないという地域も、最優先課題として取り組みます。離島への展開も進めており、昨年は奄美大島、五島列島、対馬にも開設しました。将来的には、既存の施設との連携も視野に入れています。
加藤 それは面白い構想ですね。
テストセンターの数とともに、その質の担保も重要ですね。
野口 AIの発達により、カンニングの手法も高度化し、スマートグラスなど新しいデバイスも登場しています。私たちも技術を駆使して不正を防ぐ取り組みを進め、公正な試験環境を守ることが使命です。
加藤 今後も申し込めばいつでもどこでも席を確保でき、公正に受検できる環境の整備に期待しています。
野口 十分な席数と開催頻度を確保していきます。試験実施団体のパートナーとして、皆さまの声に応えていきたいと考えています。本日は貴重なお話をありがとうございました。