お客さまとの長期リレーションを強化«トップ鼎談»

名南M&A◆特別企画◆トップ鼎談

トップ鼎談豊田信用金庫

〔週刊 金融財政事情 2026.3.3号〕
※本鼎談は2025年12月3日に実施したものです。

 

外部専門家との連携で実現

「数字を作る」のではなく「お客さまの困りごとを解決する」

豊田信用金庫 理事長 大橋 宏(おおはし ひろし)氏
1962 年生まれ。85 年豊田信用金庫入庫。2007年中小企業診断士登録、経営サポート課長(現経営支援部)、17 年執行役員経営支援部長、21年常勤理事審査部長、22 年常勤理事経営支援部長、23 年常務理事経営支援部長(経営支援部担当)、24 年専務理事(経営支援部、事務部担当)、25年6月から現職。


お客さまの「道しるべ」となり、M&Aの活性化を通じて地域に貢献する

名南M&A株式会社 社長 篠田 康人(しのだ やすひと)氏
1973 年生まれ。99 年株式会社名南経営(現株式会社名南経営コンサルティング)入社、2000 年中小企業診断士登録、01年M&A業務を推進する企業情報部の立ち上げに携わり、シニアコンサルタントに就任、09 年企業情報部マネージャー、11年宅地建物取引士登録、14 年10 月名南M&A株式会社設立、代表取締役社長就任、現在に至る。

 

[コーディネーター]
金融財政事情研究会 理事長 加藤 一浩(かとう かずひろ)
1962年生まれ。86年株式会社金融財政入社。出版部・業務企画部・東京営業本部等を経て2011年取締役出版部長。13年社長。17年グループCEO。23年4月より現職。

苦境に立たされる地元サプライヤー事業者、対応策としてのM&A
  • 加藤 地元愛知県の景況感はどうか。また、お客さまの悩みや課題に対してどのように取り組まれているか。
  • 大橋 愛知県全体の景況としては緩やかな回復傾向にある。しかし、当金庫の営業エリアでは、特に製造業・運送業・建設業の3業種が非常に厳しい状況にある。当該エリアはトヨタ自動車の企業城下町として有名であり、当金庫のお客さまにも同社の二次以下のサプライヤー事業者(以下「サプライヤー」という)が多くいるが、そうした先で物価や原材料費、人件費の高騰に対応した価格転嫁が思うように進んでいない。委託事業者であるトヨタ自動車は好決算を維持しているが、サプライヤーの半数近くは営業赤字というのが現実だ。
     部品共通化や技術革新への対応もサプライヤーに重くのしかかっている。部品共通化については、部品種数が少なくなったことにより特定のサプライヤーへ受注が偏るようになっており、受注が増えた先と減った先の二極化が起きている。ただし、受注が増えた事業者においても、設備投資の増加により償却費がかさみ、結果的に赤字になるところも少なくない。
     技術革新への対応については、既存の設備では新素材の加工に耐えられないことが多く、やはり設備投資が求められる。委託事業者から低価格・高品質な製品が要求されていることも、サプライヤーには多大なプレッシャーとなっている。
     当金庫としても、各種サプライヤーがどのような要因で赤字になっているのか、ヒアリングや決算書を通じて分析しているが、対応に苦慮しているのが実情だ。
  • 篠田 自動車業界の潮流が変わっていることは確かに感じている。十数年前までは、大手メーカーの子会社やサプライヤーは、委託事業者の方針に沿って設備や人員を整えることで、事業機会が確保される環境にあった。しかし、もうそのような状況ではなくなっている。各事業者が自ら考えて投資をしなければいけない時代になっている。そうした中で、当社がソリューションの一つとして提供するM&Aを活用しようという動きが出てきている。こうしたことは以前なら全く考えられなかった。
     例えば、エンジン部品を作っている事業者であれば、エンジン需要の低下が見込まれる中、自動車以外の航空機や工作機産業といった隣接産業への参入を目的に投資を検討することがある。その手段としてM&Aを活用するケースが考えられる。
     一方で、信用金庫のメイン顧客となるような二次・三次受託事業者については、事業承継も喫緊の課題となっている。ただ、赤字であるとなかなか承継先へつなげるのが難しい。委託事業者へのM&Aといった手段も模索しながら、信用金庫と一緒になってサポートしていきたいと思っている。
     先ほど技術革新の話もあったが、業界の先を読んでお客さまに提言しつつ、方向性をアドバイスする、いわば「道しるべ」のような存在にならないといけないと考えている。
  • 加藤 他業種への投資という話があったが、事業承継・M&Aにも地域を超えた広がりが出てきているのか。
  • 大橋 その通りだ。地域をまたがるという点での広がりも出てきている。当金庫のお客さまで、もともと三河に工場を持っていたところ、東北地方の工場をM&Aで購入し、その後も好調な先がある。このお客さまは委託事業者からの要請で、今度は北九州への進出を計画しているが、その際も新規投資ではなくM&A案件はないだろうかということで相談を受けている。トヨタ自動車が北九州と東北にも生産拠点を広げる「三極体制」をとってから久しいが、この先三河では生産体制が縮小するという見通しもあるので、お客さまの県外進出への成長支援にM&Aを活用することは有用ではないかと思っている。
  • 篠田 同じ信用金庫のお客さま同士でのM&Aは当然たくさんあったと思うが、これからは県外含め、他の信用金庫や銀行のお客さまと豊田信用金庫のお客さまをつなげていくといった形で、当社がハブ機能としての役割を果たせればと思っている。当社は名古屋に本社を置いているが、2025年は東京にも進出し、関東から中四国へと事業エリアは広がっている。事業者同士の橋渡しという点で、お役に立てるのではないかと思う。
「セールス」から「マーケティング」への意識改革
  • 加藤 24年策定の中期経営計画とその進捗状況、今後の経営見通しについてお聞かせ願いたい。
  • 大橋 当金庫では24年に3カ年計画が立ち上がったが、その間に「金利ある世界」が到来した。業務収益については、預け金の受取利息や貸出金の利息収益も増えるので、基本的には計画を上回ってきている。
     ただし、私たち信用金庫では変動金利扱いの貸出構成比が全体の半分程度しかないため、支払利息が前年度の2.5倍ほどに急増したことで業務費用がかさみ、メガバンクや地方銀行ほどには業務純益は増加せず、計画から若干の乖離が生じている。これは構造上致し方ない面もある。
      預貸金水準は計画以上となり、過去最高の数字にはなったが、金利ある世界でどのように収益を上げていくかが難しい問題となっている。
     一方で、私個人としては、数字を作るのが私たちの仕事ではなく、地域のお客さまの課題解決をしていくのが信用金庫のあるべき姿だと考えている。
  • 加藤 いわゆる「マーケットイン」の発想で営業活動すべき、という考えか。
  • 大橋 理事長に就任してからは、とにかく「お客さまの困りごとを解決しなさい」と説いている。
     ただ、長年「数字を作る」ことを目的とした営業体制となっていたので、お客さまの情報がまだまだ入りづらいという課題もある。
     売り手の立場でアプローチしてしまうと、お客さまがいま何を求めているのか、ビジネスや業界全体はどのような状況になっているのか、そういうことを聞く発想にならない。
     3カ年計画を必達するには、従来の営業手法の転換が必要だと考えている。お客さまに「売れる仕組み」を作れるよう、いわゆる「セールス」から「マーケティング」へと考え方を転換するように、お客さまの立場に立った営業に転換するよう指導をしている。こうした営業手法は、すぐには業績につながらないかもしれない。しかし、お客さまの課題解決に成功すれば職員のやりがいやエンゲージメントにもつながる。本来私たちがやるべき仕事は数字を作ることではないと、職員に根本から浸透させたい。
課題解決を可能とするための組織体制整備
  • 加藤 業界全体としても「課題解決型営業」、「伴走型支援」へと舵を切っている信用金庫も多くなっている。
  • 大橋 事業承継・M&Aは地域の事業と雇用を維持するための有用な手段と捉えている。名南M&Aとは職員の出向や実務研修といった面での連携体制を構築している。
     名南M&Aには当金庫から出向者を1年単位で受け入れてもらっている。今後はもう少し短期で、より多くの職員を出向させてもらい育成いただきたいと考えている。
  • 篠田 当社にはグループ法人がいくつかあり、最近の金融機関からの出向者には、グループ法人間を渡り歩く人もいる。名南M&Aに3カ月、税理士法人に3カ月、コンサルティング会社に3カ月、というように異なる法人に在籍することで、ゼネラリストとなって出向元へ戻るというケースが増えてきている。例えば税理士法人に出向すれば、相続業務等も学ぶことができる。複数の職員をそれぞれ異なる法人に出向させるという金融機関もあり、それと同じ効果が期待できる。
  • 大橋 当金庫も、職員の能力に合わせた出向形態を検討してもよい。
  • 篠田 他に最近増えているのが、当社から社員を信用金庫に派遣して、現場でレクチャーさせてもらう「逆出向」だ。週に2〜3回ほど、信用金庫の支店に社員を派遣して、支店メンバーと打合せをし、お客さまの決算書を見せてもらい、レクチャーから提案まで行う。
  • 大橋 もともと、名南M&Aとは、お客さまへの帯同訪問支援体制も確立している。まず当金庫でいくつか事業承継支援先を選定し、ヒアリングシート等を通じてある程度課題内容を把握した上で、名南M&Aの社員に同行いただいている。
     当金庫の営業だけでなく専門家が帯同してくれると、お客さまも安心感がある。専門的なサポートをいただけるという点で、非常にありがたい連携だと感じている。
  • 加藤 お客さまにとって、信用金庫の紹介ならば安心して相談できる。
  • 篠田 その通りだ。最近M&A業界ではトラブルも多いので、お客さまが直接M&A業者とつながるよりも、金融機関を通して提案してもらいたいというニーズは増えている。
  • 大橋 中立的な目線が入ることにも安心感を持っていただける。事業承継やM&Aは経営者にとってデリケートな問題だ。融資取引関係にある私たちには切り出しにくいこともある。私たちが気付かないリスクや留意点を指摘してもらえるのも、名南M&Aとタッグを組む利点だ。
  • 加藤 お客さまとの信頼関係の醸成やリレーション強化を図るために強く意識していることは何か。
  • 大橋 経営者の高齢化に伴う事業承継問題は待ったなしの状況にある。大変デリケートな問題でもあり、社長に「そろそろ事業承継を考えませんか」とはなかなか言い出しにくい。事業承継は、重要な経営課題ではあるが、ある日突然取り組む必要に迫られるという性質のものだ。実際に取り組むまでに、非常に時間のかかる支援になる。
     支店長も2〜3年で替わっていくので、支店全体で気長に取り組んでいく姿勢が必要である。数字を出すだけではなく、いわゆる非金融分野に取り組むことが私たちにとって重要であると、人事評価制度も含め、職員にしっかり浸透させねば、こうした息の長い支援は難しい。
  • 篠田 事業は順調だが後継者がいない高齢の経営者で、事業を承継することに踏ん切りがつかず、面談のたびに「事業承継についてまだ悩んでいる」と言われる方がいる。また数年後に呼ばれて同じやり取りを繰り返しており、「考え続けていてください、決断できそうになったら呼んでください」と答えている。常にフォローできる関係づくりが大切だ。
  • 加藤 悩み多き経営者が、いざ事業承継について対応を始めようと考えるきっかけは、どのような場合が多いか。
  • 篠田 経営者ご自身が病気になったり、家族や会社にとって何か大きなイベントが起こったりするケースだ。コロナ禍もそうした要因の一つだった。事業環境が順調な時はなかなか事業を譲渡しようという気にはならない。自分がどこかで引退しなければいけないということは、経営者は認識されている。
     そうした方を長期的にフォローして、タイミングが来たら支援をすればよいと思っている。お客さまにとっては、金融機関や当社のような事業者に長期フォローをしてもらえることが大きな安心材料となる。長くお付き合いすることが、お客さまとの関係性において大事な観点ではないか。
有力人材を出向で「即戦力人材」へと鍛える育成体制
  • 加藤 事業承継やM&Aに関する専門人材の育成はどのように対応されているか。
  • 大橋 やはり出向が一番手っ取り早い育成法だ。ソリューション業務、コンサルティング業務に関しては専門性が必須で、当金庫も中小企業診断士の有資格者を育成して経営支援担当に据えているが、知識と実務は別物だ。できる限り出向を通じて実務ノウハウを身に付けてもらいたいと考えている。
     お客さまとリレーションが図れ、適切に話を聞き取り、適切な支援策を提案できる人材の育成を目指している。
  • 篠田 人材育成は非常に時間がかかり、かつ簡単なものではない。課題を認識できるだけの多種多様な知識が求められる。
     当社では、とにかく経験を積んでもらうことを強く意識している。M&A案件は着手から成就するまでに1年〜1年半ほどかかる。出向者には、デューデリジェンスはこの案件、クロージングはこの案件と段階別に複数の案件を経験してもらい、3カ月ほどの期間でM&Aの全段階をマスターしてもらうプログラムを組んでいる。
  • 加藤 どのような職員が出向してくるのか。
  • 篠田 入庫10年目、2〜3店舗経験された30歳前後の方が多い。将来を嘱望されたいわゆる「エース人材」が多いように思う。そういった職員は、厳しいトレーニングを耐え切れるという実感がある。
課題解決を通じ、地域活性化に貢献する
  • 加藤 事業承継やM&Aに対する今後の展開や地域に対する熱き想いを聞かせてほしい。
  • 篠田 当社は名古屋以外でも様々な地域で金融機関や事業者と連携しているが、地方に行けば行くほど働き場所が少なくなっている。そうした地域の事業を引き継ぐ先を見つけることで、雇用も人も残り、本当の地域活性化につながると考えている。
     24年10月より、M&A案件の紹介・マッチングプラットフォームである「MAfolova(マフォロバ)」事業を開始した。M&Aは人が介在する部分が非常に重要である一方、全国あまたあるM&Aニーズをしっかりマッチングするとなると、どうしてもインターネットの力が必要となる。そこで、全国のM&Aニーズを集約し、地方企業同士のM&Aの活性化のために、「MAfolova」を買収した。
     当社は創業当時より地域密着サービスを提供しており、今後もその方針は変えずに取り組んでいくが、時代の変化に合わせた道筋を支援先に示すことが大切だと思っている。引き続き地域の金融機関と一緒に取り組んでいきたい。
  • 大橋 信用金庫のあるべき姿は、地域の皆さまが集まる「相談拠点」だと思っている。私たちの役目は、事業者から個人のお客さままでが抱える様々な悩みを解決することに尽きる。最終的には、お金の話ではなくても、地域の皆さまが店舗に訪れてくれるような金庫になることが目標だ。そうしたことを愚直にやり抜いていけば、おのずと粘着性のある預金も集まり、課題解決の中で資金需要も生まれるだろう。
     名南グループの力を借りながら、数字ではなく、お客さまとの信頼関係の構築を第一とする信用金庫になりたいと思っている。